試合前展望 |
2年前の08-09シーズンと同一のカード。
当時も、フットボール史上、最も魅力的な決勝戦と謳われたが、それは2年後の現在も全く色あせていない。
攻撃に重きを置いた、フットボールを知り尽くしたチーム同士の戦いである。
戦力の面で見れば、前回よりもスキが無くなった無敵のバルセロナに対して、C・ロナウドというエースを失いながら、
逆に、チーム力の底上げを行うことで、健闘を続けてきたマンチェスター・U。普通に考えればバルサの勝ちである。
だが、前回の敗戦というモチベーションに加え、ウェンブリーという地の利がマンUのアドバンテージになっている。
両チームとも、リーグ優勝を決めており、主力選手のコンディションは万全。
数十年、常に王者であり続けたマンUが、初めて挑戦者として望む、決勝戦である。
決勝を前に、一つミソがついたニュースが、大黒柱のギグスの不倫騒動。
元々、プレイボーイとして名を馳せたギグス。ジョージベストの後継者という点では、ベッカムよりもギグスが公私両面で
引き継いでいるのだろう。
今シーズンは、若返ったかのようにチームを牽引したギグスのプライベート問題。
若返ったのは、恋の力か・・・?果たして、このニュースはどのように影響するのか。
そして、アイスランドの噴火が再発。
何故か、前回(昨年)のインテル戦でもバルサが被害にあっている。
今回も、陸路で離島までの長旅を強いられた。
決勝の地は、聖地ウェンブリー。
イングランド代表にとっては圧倒的なアドバンテージを誇るスタジアムだが、改修によって、トレードマークのアーチは
無くなり、半ドーム形状になったことや、コンサート会場などの使用にもより、芝の状態はすこぶる悪い。
絨毯のように美しく見える芝は、根付きが悪く、度重なる整備作業で、なんとか決勝の体裁を守っている。
だが、イングランド特有の「スタンドから一歩あるけば、そこはピッチ」という、フェンスも、トラックもない、
ピッチとありえないほど近いスタンドは、フットボール観戦の魅力に溢れている。
バルサは初のCL優勝を、ウェンブリーで戴冠しており、実は縁起の良いスタジアム。
さらに言えば、ロンドンの住民はマンUがお嫌い。
ウェンブリーがマンUにとって、一概に、地の利とは言えないのが、実際の状況のようである。
|
スターティングメンバー |
FC・バルセロナ |
|
マンチェスター・U |
(監督) ジョゼップ・グァルディオラ
(フォーメーション)
4-3-3
|
(主審)
カサイ
ハンガリー |
(監督)
ジョゼップ・グァルディオラ
(フォーメーション)
4-4-1-1
|
(メンバー) V・バルデス
アビダル
ピケ
マスチェラーノ
D・アウベス
ブスケッツ
イニエスタ
(C)シャビ
ペドロ
メッシ
ビジャ
|
(メンバー) ファンデルサール
エヴラ
ヴィディッチ(C)
リオ・ファーデナンド
ファビオ
パク・チソン
ギグス
キャリック
バレンシア
ルーニー
エルナンデス
|
(サブメンバー) オーウェイル
プジョル
ボージャン
ケイタ
アフェライ
アドリアーノ
ティアゴ |
(サブメンバー)
クシュチェク
オーウェン
アンデルソン
スモーリング
ナニ
スコールズ
フレッチャー |
|
ベルバトフがサブメンバーからも外されたマンU。確かに信頼度ではエルナンデスに劣るものの、それでもベルバトフを信頼して
起用し続けてきたファーガソンだけに、これは若干のサプライズ。ケガか・・・移籍問題か。
そして、ナニが外れてバレンシアが先発。守備の面で、プレッシングをかけるための布石だろう。
バルサはプジョルが、練習中の違和感で、ベンチスタート。代わりにマスチェラーノがCBに。
そして、先日、腫瘍摘出の手術からカムバックしたアビダルが先発。前回の復帰戦では、フィジカルが戻っているとは思えなかったが
バルサは、フィジカルよりもチーム内での連携とテクニックがモノをいう、特異なチーム。筋肉は必要な条件ではないということか。
上記以外は、予想通りのフォーメーションといってよい。
期待の決勝戦が始まる。
|
2010-2011 UEFA Champions league Final |
開催日: 2011年5月28日 会場:ウェンブリースタジアム(イングランド・ロンドン) |
FC・バルセロナ
(スペイン・リーガエスパニョーラ) |
3 |
1-1 |
1 |
マンチェスター・U
(イングランド・プレミアリーグ) |
2-0 |
(ゴール) ペドロ
(ゴール) メッシ
(警告)D・アウベス
(ゴール) ビジャ
(警告)V・バルデス
ケイタ(交代)ビジャ
プジョル(交代)D・アウベス
アフェライ(交代)ペドロ
|
時間
27分
34分
前半終了
54分
60分
61分
69分
69分
77分
79分
85分
86分
88分
92分
試合終了
|
ルーニー (ゴール)
キャリック(警告)
ファビオ(交代)ナニ
キャリック(交代)スコールズ
バレンシア(警告) |
|
キックオフ |
意外なほど、キッチリと二分されたスタジアム。
バルササポーターも陸路で来たのだろうか?
とにかく、ものすごい応援の量だ。
試合開始から、予想通りのマンUのプレッシング。とにかくパク・チソンがよく走る。
立ち上がりは、ピッチの状態とマンUのプレスに押され、バルサのパス回しは鳴りを潜めた。
マンUは縦へのフライスルー気味のパスを連発し、バルサDFの動揺を誘う。
元々、ラインが高めのバルサDFは、多少のバタつきを見せた。
Vバルデスが、なんとかパンチングでルーニーの飛び出しを交わす危ないシーン。
しかし、10分を過ぎたあたりから、いつも通りの展開に状況はゆっくりと変化していく。
シャビとイニエスタから供給されるパスは、100%に近い確立で味方に通る。
メッシは、マークがついていようが、スペースがなかろうが、お構いなしでプレーを続ける。
1対1の局面で、なんとかリオがメッシに勝利するも、万が一抜かれれば、1点モノのシーンである。
とうとう相手のペナルティエリア付近でもバルサのパスが回るようになってきた。
バルサのパスが回るにつれ、マンUのプレスも、開始直後のようなアグレッシブさがなくなる。
追い立てても、追い立てても、ボールとの距離は縮まらない。
逆にバルサは、守備の場面でも効率よくリトリートを行うことで、ワンタッチでマンUのパスを分断し、
即座に三角形を作り上げて、パス交換をスタートさせる。
クライフの時代からバルサが追い求め、誰も到達し得なかったフットボールがここにあった。
そして、均衡は突然やぶられた。
中盤でパスを受けたシャビが、ラインの整いかけたマンUのDFラインを見極めて、アウトサイドでパスを一閃。
ピッチを斜めに切り裂いたパスの行方がペドロだと確認できたときには、すでに彼の目の前にはGKただ一人。
大ベテラン、ファンデルサールの手をすり抜けて、ボールはゴールに吸い込まれた。
バルサらしい先制ゴール。
このまま一気に流れが傾くかと思われた34分。
オフサイド気味のパスに混乱したバルサDF。跳ね返りに反応したのは、ルーニー。ギグスへ流す。
そこから、華麗なリターン。ワンタッチにも関わらず、狙い済ましたような鮮やかな軌道を描いて突き刺さった。
同点ゴールで、スタジアムは熱狂の渦に包まれる。
これに対し、バルサは、まったくひるむことなく、攻撃を繰り返す。
前半は、スコアこそ同点だったものの、バルサペースで終了した。
後半に入っても、ペースを替えることができないマンU。
ジリジリとラインを押し込まれ、ペナルティエリアの前でのパス交換を許すことになる。
エンドラインを割ったCKすらも、ショートコーナーからのパス交換。
バルサの攻撃は徹底している。
不意に、メッシへとボールが渡った瞬間、距離がある為に、パスコースを塞ごうとしたDFラインを確認し
シュートを打ち込んだメッシ。驚く間もなかった。
わずかにヴィディッチがブラインドになったのか、巻き気味のシュートは、バウンドをしてゴールへ。
今日が現役ラストゲームになるファンデルサールは、そのボールに対応できなかった。
勝ち越しゴールが決まり、喜びを爆発させるバルセロナ。
今年のメッシを象徴する、絶好調のゴールだった。
バルサのパス交換は冴え渡り、逆にユナイテッドのパスは、ハーフラインを超すことも難しくなってきた。
マンUが、打開策としてナニを投入した直後だった。
メッシが、入ったばかりのナニを鮮やかに抜き去り、ゴールへ切れ込む。
DF陣、総出でなんとかこれを阻むが、こぼれたボールを拾った幸運なブスケッツが、いつも通り、フリーの味方へ処理。
受け取ったビジャは、FKを蹴るかのように、マンUゴールの右隅へ放り込んだ。
これで3-1。
少なくとも、今まで試合を見ていた人間ならば、これがトドメになるであろうことが理解できただろう。
マンUが少しアツくなり始め、警告で試合をコントロールしはじめる主審。
Vバルデスも遅延行為で警告を受ける。
これに対し、冷静に交代で対処するグァルディオラ監督。
ファーガソンは、ベテランのスコールズを投入して、怒りをごまかす以外に対処の方法がない。
ジワジワと時間だけが過ぎ、ついにタイムアップを迎えた。
|
総括 |
怒りに震えていたファーガソンが、試合終了の笛と共に、頬を緩める。
笑うしかない。
そんな試合だった。
理想を求めたバルセロナが昇華させたスタイルで、世界を制した。
力で、マンチェスター・Uを再びねじ伏せたのである。
2年前からつづく「ストップ・ザ・バルセロナ」
モウリーニョが昨年のインテル、今季の国王杯決勝で見せた「バルセロナの倒し方」は未完成のまま、
今季を終了した。
最強バルサの快進撃。それは、メッシの成長によるところが大きいだろう。
現在23歳。U-23に出ているべき年代の、歴史に名を残す名手は、さらに成長を続けている。
C・ロナウドのように超人的な能力を生かすために、周囲が犠牲になるのではなく、
メッシが囮になることで、周囲が生きることができるし、それを警戒しすぎた相手をメッシが叩きのめす。
かつて、これほどまでに『スタイル』で世界を席巻したチームは歴史上、数えるほどしかない。
我々は、恐らく歴史に名を残す伝説のチームのプレーを目の当たりにしている。
ここまで来るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。
それは、当時、選手であったグァルディオラが最もよく分かっているだろう。
十年以上かけて、ようやく手に入れた理想。簡単には崩すことができないだろう。
それは、難病を克服し、ビッグイヤーを掲げた、アビダルが象徴しているようだった。
困難を乗り越えて手に入れた栄光は、光り輝いている。
|