James Blake 2011.10.12 at 恵比寿リキッドルーム
OPEN19:00 START20:00
 
 
いつもより少し遅めの時間の恵比寿。
サクッと仕事を切り上げて、やってきました。

2010-2011にかけての期待の超新星、ジェイムズブレイクの初来日LIVEとあって
会場は当然のようにSOLDOUT。
オークションの相場は5000円のチケットが15000円で取引される状況に。

こじゃれたバーやクラブで、落ち着いた雰囲気を演出したけりゃ、
コイツをかけとけば大丈夫、みたいな存在になった、
かけだしコゾーのアルバムは、瞬く間にダブステップというサブカルジャンルをメインに押し上げた。
近年、トムヨークがご執心のダブステップは、ちょうどブームの到来という様相だ。

リキッドに入って、とりあえずスクリュードライバーでフロアに向かうと、
なんと、前座が始まった。
この時間スタートで、前座がいるとは!
アコギ一本のアジア系の森ガールだが、カタコトなのでアメリカ人だろう。
ちょっとカナダ民謡みたいなファルセットのきいた感じのやつを聞かせてくれた。

時間は20:45。
「持ち曲すくねえから21:00前に終わったりして」なんて言っていたが、21:00前で始まってもいない。
うーん。
と、思っていたら登場。純朴そうな兄ちゃんだ。
一発目はソロで歌う。

(Youtubeでの楽曲紹介)

マイク自体に、ビブラートのようなエフェクト効果がバッチリ仕込まれているのは間違いない。
しかし、歌声そのもの(歌い方)にも仕掛けがあり、彼の歌は、見事に揺らいで消えていく。
音源であれば、いくらでも可能であろう特殊な表現をLIVEでするとき、特にDJスタイルのアーティストは
スカスカの生音を聞かせるか、カラオケに成り下がった音源を垂れ流すか、通常はこのどちらかに寄るものだ。

彼の場合は、そのどちらでもなかった。
事は実に単純な話だ。実際に、この場で、特殊な音源を発生させてしまうのである。
それを確認したときに、ジェイムズブレイクは、流行りものの単発アーティストではなく、
シーンを牽引するに足る、ダブステップの最重要人物になりえる存在だと確認した。

2曲目でドラムとアコギが加わり、3人編成になる。
当然ながら、より、音に厚みが加わる。
しかし、それよりもさらに実験的なアプローチで音像は重ねられた。
ブレイクが歌ったワンフレーズをその場で録音し、即座に再生。その音に自らの声でハモリを加える。
さらに、その音は録音され、次のフレーズで別の音程で歌声が重ねられる。
昔、ウィーザーのLIVEでリヴァースが同様のことを行ったことがあるが、
その時は、曲が始まる前にサビだけ歌い始めて、プレイを止めて録音していた。
曲の中で、流れも止めずにプレイの一つとして放り込んできたのは驚愕だ。
場内からは、歓声だけでなく「オイオイ、そんなことまでやっちゃうの」という苦笑いすら聞こえてくる。

トムヨークが「声を楽器のように使いたい」と言った理想像は、こうした形で、今、現実のものとなっている。
声に対してエフェクターをバンバン多用している時点で、拒否反応を示す人もいるかもしれないが
これはもう、そんな次元の話じゃない。
単純に、耳に届いてくる音が、心地よいかどうかを追求した結果。ただそれだけだ。
ベースの音などは、もはや音というレベルを超え、ソニックブームなんじゃないかという音圧。
何故、これが、すんなりと受け入れられるのか。
難解でマニアックで、時に気持ち悪ささえ感じることもある、ダブステップというジャンルを
根底から覆す表現。「ただ、心地よい」と言われるに至ったのか。
理屈は分からない。

個人的には、今日のLIVEは、実験的なアプローチの稀有な成功例を目の当たりにした
非常に貴重なLIVEであると共に、感動を覚える素晴らしいアクトだったと言いたい。

ただ、一緒に見ていた後輩は、「一瞬、ついていけなくなるところがあった」と感想を述べたように
やはり、誰にでも、全てが受け入れられるものではないジャンルであるのは確かだ。
それでも、これまでこうしたジャンルに興味すらなかった人々に
広く間口を開いたパイオニアとしての役割と、感動を与えてくれるアーティストであることは間違いない。

今年、ベストアクトの候補に挙げたい出来であった。
・・・ただし、終了22:10はちょっといただけないかな・・・金曜のクラブイベントでもないし・・・。